法学部

法(学)のわかりにくさと法社会学

0 経緯 以下に記す小論文は,2023年度Sセメスター「法学以外を専門とする学生のための法学入門」のレポートである(注1)。この小論文の公表を快諾してくださった授業担当教員の白石忠志教授に感謝の意を述べたい。 この小論文をブログに公表しようと思った…

フランスにおける人格権:私生活の尊重を求める権利と民事責任との関係

民法演習の報告の材料として,フランスの人格権を扱う文献を読んだ。 その中のPascal Ancel, Droits des obligations (Dalloz, 2020), pp.390-394を訳出した。 不法行為法の構造としてはフランス法を継受している面もある日本にも何かしらの示唆を得るもので…

「契約」という翻訳

Ⅰ はじめに 日本が近代化を目指し,西洋列強から法制度を継受(輸入)した際に,輸入した概念・観念を日本語で表現するのに多大な苦労を要したことは,よく知られている話である。有名な話としては,福沢諭吉がright(Recht,droit,regt)をどのように訳し…

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(下)

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(上) - pompombackerの徒然 グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(中) - pompombackerの徒然 Gunther Teubner…

4年2学期の自己評価

この学期は授業を全く取らなかったので成績云々で語ることはできない。 そこで,自らの赴くままにやっていこうと思った。 4年2学期の目標 - pompombackerの徒然 2学期が始まった当時に次の3つを目標に掲げていた(忘れていた)。 ①ドイツ語の勉強 これはウェ…

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(中)

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(上) - pompombackerの徒然 前回に引き続き,Gunther Teubner, “Globale Bukowina : Zur Emergenz eines transnationalen Rechtspluralismus” in Rechtshitorisches…

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(上)

「生ける法」議論の系譜を現代に辿っていくうちに,Gunther Teubner, “Globale Bukowina : Zur Emergenz eines transnationalen Rechtspluralismus” in Rechtshitorisches Journal 15(1996), S.255-290という論文があることを村上淳一「歴史的意味論の文脈に…

我妻栄「私法の方法論に関する一考察」を読む

Ⅰ 我妻のモチベーション 法学部生ならば我妻栄という人物を一度は聞いたことがあるだろう。日本の民法学をほとんど完成させ,現在もなお「伝統的通説」として学説に影響を与えている民法学者である。戦後すぐに行われた民法(家族法)の大改正を行った立法者…

法学部生にオススメの本5冊を考える

質問箱で,以下のような質問が来た。 この質問は,簡単そうに見えて意外に難しいと感じた。 第1に,僕自身はそこまで法学をオススメはしないからだ。 これは「法学って結局なんのためになされているのか」という問いに僕が答えを見出していないからであり,…

4年2学期の目標

今学期は全く授業をとらない。 すでに卒業単位を取り切っているのは言うまでもないが,1学期に経験した「オンライン授業」への不適応さからである。 これから様々な場面でオンラインでの催しが増えると思うから,慣れていかなければならないと思うのだが。 …

4年1学期の自己評価

コロナ禍と言う特殊な状況下にもあり,ゼミは全てオンラインであった。 このような事情で,勉強へのモチベーションが上がらず,ゼミも後半はいい加減な態度で望んでしまった(担当の教員方には大変ご迷惑をかけた)。 結論を言えば,うまく環境の変化に対応…

アイヌ民族政策の途

I はじめに 北海道大学は明治時代に日本が近代国家として成立し,その枠組みが作られる中で札幌農学校 として最初に設立され,現代に至る。このような日本,とりわけ北海道の近代化の裏には北海道 (=蝦夷地)に住んでいたアイヌ民族の排斥がある。北海道大学…

近代において何が法を法たらしめているのか(法学内部における外部的観察の試み)(1)

今月はあまり勉強に集中できなかった。なので今回は復習でもする感じでノートを書いてみる。 題材は法社会学の定期試験の問題から引っ張ってきた。院試の勉強みたいなものである。 参考文献は書くようにするが具体的なページ数は書かないので注意されたい。 …

Joseph Raz, “The Functions of Law” 要約・コメント

法哲学のゼミで法実証主義者であるJoseph Razの“The Functions of Law”の要約の報告をすることになった。この論文はRazのThe Authority of Law (Oxford, 2nd, 2009)所収(pp.163-179)のものであり,初出は1973年のA.M.B. Simpson (ed.), Oxford Essays in J…

4年1学期の目標

コロナ禍が席巻している中,着実に進路を決めなければならない。 これに加えて大学院のゼミに潜る(火2・火5)。 オンライン授業の良いところは講義と演習の時間が被っている場合に,やり方次第ではどちらも取れるということだ。 つまり火曜日は外書購読の日…

やはり正義構想論はよくわからない

⒈法=正義? 法と正義の関係についての著作は数多ある。そのうちの一部を紐解くと「法は正義を標榜する」(井上達夫)とされたり,「法システム内の偶有定式」(ニクラス・ルーマン)とされたりする。中には「法の自己破壊的超越物」(グンター・トイプナー…

小坂井敏晶『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫,2020年)を読む

月に2回のペースでブログの記事を書くようになった。 そして2月の2つ目の記事は「朝井リョウ再読」にするつもりだったが,朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』が今手元にないので今回は小坂井敏晶『増補 責任という虚構』を読んでいこうと思う。 ま…

3年2学期の自己評価

3年2学期の目標 - pompombackerの徒然 Ⅰ 大学の勉強(60点)⑴上記と実際の成績の差を評価していく(減点方式)。 評価が1段階下がるごとに10点減点,上がるごとに10点加点していく。かっこ内は出席率。 月2,水4 民法Ⅱ −10点(0%) 単位が取れたので良し。 …

近代的所有権の系譜学

Ⅰ 本稿のモチベーション 我が国の民法において,所有権とは法令の制限内において自由に物を使用,収益及び処分する権利であると規定されている(民206条)。民法学上この所有権は絶対性を有するとされている。近年この「所有権(物権)絶対の原則」の弊害と…

日本における「法文化」論

Ⅰ 日本人は訴訟嫌い? 戦後に登場した東大系の三大知識人といえば,川島武宜,丸山真男,大塚久雄がしばしば挙げられる。彼らは自身の学問的基盤に依りながら,戦後民主主義の旗振り役になっていたことは、諸著作から窺える(もっとも,日本が高度成長の波に…

社会問題と司法の応答(2)

前回;社会問題と司法の応答(1) - pompombackerの徒然 Ⅳ 裁判所の組織と判例の位置 前節で提起された日本の裁判所の「鈍感さ」の要因の検討に入る前に以下の2つを考える必要がある。すなわち,⑴法を全体社会の中の部分社会システムと捉えた際に,裁判所と…

社会問題と司法の応答(1)

Ⅰ はじめに 法は道徳と繋がりがあるか否かは,法理論における古くて新しい問いとしてしばしば位置付けられる。このおおよそ答えのない問いは,近代に至り共同体が融解し各人が自由で平等な主体として存在している以上,絶えず問われ続けるように思う(注1)…

川島武宜『所有権法の理論〔新版〕』第3章 要約

川島武宜のモチベーション 川島武宜は戦中に東京帝国大学法学部で行われた「民法第一部」(末弘厳太郎担当)の中で,実用法学から離れて,特殊=近代的な所有権の社会的作用を分析する特別講義を行った。まさに社会学的法律学に他ならない。すなわち民法学で…

3年2学期の目標

あの学部中で1番忙しいと思われる3年1学期が過ぎ,肩の力を抜いて勉強できるかと思ったら,ゼミの予習に忙殺されなかなか自らの問題に取り組むことができない。 そんな3年2学期である。 3年2学期の時間割は以下のものになる。 これまでの時間割の中で最もコ…

3年1学期の自己評価

3年1学期の目標 - pompombackerの徒然 Ⅰ 大学の勉強(60点) ⑴上記と実際の成績の差を評価していく(減点方式)。 評価が1段階下がるごとに10点減点,上がるごとに10点加点していく。かっこ内は出席率。 月2 法と経済学Ⅰ −20点(55%) 予想以上にできなかっ…

熱帯夜とうなぎ

低気圧が出しゃばっている。 今日が札幌では今年いちばんの熱帯夜になるそうだ。 どうしたものか。 法学部の定期試験が終わった翌日から6日間,韓国へ学部の演習の一環で行った。 初めて韓国の地に足を踏み入れたのでなかなか良い経験になったと思う。 料理…

法学部は結局何をやっているのか

この時期(7月26日現在)に試験勉強によって心がすさんでいる法学部生は多いのではないだろうか。 友達が花火を見に行っているのに自分は六法とにらめっこしている。 そんな人間がニヒリズムになってもなんら不思議ではないとも考えられる。 このような状況…

近代的所有権概念(3・完)

前々回(近代的所有権の意義),前回(近代的所有権の社会的機能)からの続編。 近代的所有権概念(1) - pompombackerの徒然 近代的所有権概念(2) - pompombackerの徒然 Ⅲ 近代的所有権の限界 しかしながら,今日の社会変動,グローバリゼーションとその反動…

近代的所有権概念(2)

前回(近代的所有権の意義)からの続編。 近代的所有権概念(1) - pompombackerの徒然 Ⅱ 近代的所有権の社会的機能 近代的所有権は大きく4つの社会的機能,すなわち①解放機能,②包摂機能,③商品交換機能,④単純化機能,を持つ。ただし,これらは相互に関係し…

近代的所有権概念(1)

Ⅰ 近代的所有権の意義 一般に,近代所有権は伝統的所有権の発展とされる。すなわち,所有権(物権)の絶対性・排他性・直接支配性はローマ法の延長線上だという理解である。しかしそれは所有権概念の扱いそのものが異なっていたのであった。その意味で近代的…