Joseph Raz, “The Functions of Law” 要約・コメント

 法哲学のゼミで法実証主義者であるJoseph Razの“The Functions of Law”の要約の報告をすることになった。この論文はRazのThe Authority of Law (Oxford, 2nd, 2009)所収(pp.163-179)のものであり,初出は1973年のA.M.B. Simpson (ed.), Oxford Essays in Jurisprudence, 2nd series (Oxford, 1973)に所収されている。

 以下,内容の報告(Ⅰ)と発表者としてのコメント・疑問点(Ⅱ)を記していく。

 なお以下の()内に付されているページ数は,特に断りのない限り上述The Authority of Lawのページ数である。また,〔〕内は報告者が訳出する際に補足したものである。あくまで報告者が言及しているものであるから,2次資料の価値しか有しないことに注意されたい。最後に,訳出として報告者が意味が取れているか怪しいと感じる箇所や一応訳出を試みたが原文の方がニュアンスが伝わるであろうと考えた箇所,重要な箇所,そして原文中に出てくる法理論家は英語で記している。訳出に関してはもちろん直訳もあるが,意訳も多分にある。これはRaz自身の英語の「クセの強さ」と(原理的には)翻訳自身に付き纏う問題から生じている。(“Legal Validity”論文の和訳ならともかく,いないとは思うが)くれぐれも参考にしないでほしい。


Ⅰ 内容の要約

 論文の題名にもあるように,この論文は「法の機能」をテーマとしている。しかしながら,法の機能そのものを論ずるのではなく,法の(社会的)機能の分類を主眼としている。Razの言葉を借りるならば,機能の概念そのものの議論が目的ではなく,「一般的な分類の企図を定式化することにより,〔法の機能についての〕主張をすることや,その主張を評価することに利用できるような手助けをすることが本稿の目的である」(p.165)。

 まず初めにRazは法の機能という概念を法の本質に関する一般的な説明を試みるいかなる法理論家にとっても最重要のものであるとする。というのは,法の機能というものは他の法学分野と関わりがあるのみならず,法律の正しい解釈や法律の適用という問題に直面する弁護士・裁判官などの法曹ら,社会学政治学といった法と他の社会規範・制度との相互関係の説明に関心がある社会科学,そして,道徳理論・政治理論(より間接的には規範哲学)とも関わりがあるからであるとする(p.163)。

 そして,このように法の機能が法に関わる多数の議論と関係づけられている点で重要であることは疑いのないにもかかわらず,この重要な法の機能の説明にほとんど注意を払ってきていないとする。ここでRazが主張していることの意味は,何も法理論家が法の機能について全く口に出していないということではなく,むしろ実際には無数の議論が展開されているが,法に関してどれか偏った,特定の点のみを強調したりしたものにとどまっており,包括的な法の機能の分類を狙いとしていないということである。

 この不完全な法の機能の説明の例を次にRazはあげる。「今日の法は人間全体にとって最小限の犠牲により最大限の満足させること」(R. Pound)としたり,「法とは人間行動を準則の支配に服せしめる企て」(L.L. Fuller)としたり,「法秩序の規範は人間の行為を規制する」(H. Kelsen)としたり,「法の職分とは,社会の至る所に実際にせよ,潜在的にせよ蔓延している紛争の解決と予防である」(K. Llewellyn)とするような法の機能の説明は,一方で全て正しいもしくは重要であるものの,他方で断片的であり,それぞれの主張が整合的なのかどうかの判断すらも困難であるという(p.164)。

 このような問題状況のもとで,Razは本稿で法の機能の一般的な分類についての詳細な説明に資することを目的とする(ibid.)。

 議論状況の整理として,Razは哲学者たちは少なくとも3つの異なった文脈で法の機能を言及する場合があることを指摘する(ibid.)。この3つとは,①法体系(legal system)の定義として,そして人間の本質に関する普遍的な確固たる事実として言及するときの法の機能,②全ての法体系では実現されないが,複数または多数の法体系では実現されていると法理論家が法しばしば興味を有しているときの法の機能,③一般的もしくは一定の環境のもとでは法体系はある法の機能を実現しなくてはならないと法理論かが考えているときの法の機能,の3つである。この3つの文脈での異なった「法の機能」の用いられ方に関しては比較的淡白にここでは記述しているが,Razとしてはいずれの文脈においても法の機能に関する包括的な分類がなされていなければ有益な議論ができない,ということなのだろうか。

 また,Razは法の社会的機能の問題は法の規範的性格付けという問題とは区別されなければならないとする(p.165)。Razによると,両者を混乱して論じているのがH. L. A. Hartであるという(この点については後述する)。法の規範的性格付けが論理的な帰結であるのに対して,社会的機能は法の意図された,あるいは実際の社会的結果であるからである。そして,前者が比較的容易であるのに対して,後者はそのつかみどころのなさから様々な困難性が付き纏うとしている。例えば,規範類型の分析ほど確固な道標はない,法体系が行なっている全ての社会的機能を網羅するような分類は困難,いかなる程度においても全ての法体系は複数または全ての社会的機能を必ず作用していると言い張ることもかなり危険,限られた目的に使い勝手が良いアド・ホックな装置以上のものとして一般的な(法律家・哲学者・社会学者・政治学者がさらなる法の分析の確固たる基礎として用いることができるような)分類を提示することは困難である,など(pp.165-166)。

 また,Razによると,いかなる法の社会的機能の分析にも待ち受けている危険は,その分析が特定の道徳的・政治的原理と深く結びついており,その原理に完全にまたは排他的に従わないような人にとって全く有用性がなくなることであるという(p.166)。このような法の機能の説明の危険さを象徴するようなものとしてRazはBenthamの法の本質的な準備(the natural arrangement of the law)を例にしている。Benthamは,「法は自らが命令または禁止する行動を基礎に用意されなければなら」ず,「功利の観点から,我々はある原理を共通項をすることができる」とし,「その原理はあたかもこの科学〔=法・法学〕を構成しているいくつかの制度ないしは制度の束で作られる決定を総括し,支配している如くである」としている。Benthamの議論の問題は,実際の法とあるべき法の区別の混乱ではなく,Benthamが法の機能を功利主義者は受け入れるであろうが,そうではない論者には全く有用ではないような特定の評価方法と結びつきながら法の機能を見立てているということであるという(pp.166-167)。

 この危険性は,あくまでも法の機能の包括的分類に徹しようとするRaz自身にもありうることをRazは自覚している(p.167)。このRazの法の機能の分類に関する報告者の所感は後述(Ⅱ)で述べたい。

 Razは全ての法体系や法規範にあるような1つの決定的な社会的機能を記述することはできないとする(p.167)。Razにとっての法の社会的機能は,典型的には数多くの法により建てられ,制限をうけている法制度により作用されるものである(ibid)。

 Razは法の社会的機能をさしずめ直接的(direct)なものと,間接的(indirect)なものに分類する。法の直接的機能とは「法の施行により,その履行が確保され,適用されることが実現する機能」であり,間接的機能とは,「現存の法に関する知識や法遵守・法適用からもたらされた態度や感情,意見,そして行動様式からなる機能」である(p.167)。すなわち,法の履行(遵守)や適用は法の直接的機能であり,間接的機能はそれらの結果であるわけである。

 次に,Razは直接的機能を,一次的機能(the primary functions)と二次的機能(the secondary functions)に区別する。一次的機能は「外向的で(outward-looking)であり,一般民衆に影響を与え,法の存在の理由や正当化をその中に見出すことができる機能」であり,二次的機能は「法体系の維持機能」である(p.168)。

 この大まかな分類をした後,Razはそれぞれの社会的機能を論じていく。

 まずRazは,一次的機能には(a)望ましくない行為の防止と望ましい行為の確保機能(Preventing Undesirable Behavior and Securing Desirable Behavior),(b)個々人間の私的取り決めの便宜提供機能(Providing Facilities for Private Arrangements between individuals),(c)サービスの提供・財の再分配機能(The Provision of Services and the Redistribution of Goods),(d)未調整の紛争の解決機能(Settling Unregulated Disputes)の4つあるとする。

 (a)望ましくない行為の防止と望ましい行為の確保機能(p.169)

 Razはこの機能を法の運用する最も基礎的・基本的なものであるとし,主に刑法や不法行為法でこの社会的機能は果たされるとする(p.169)。

 (b)個々人間の私的取り決めの便宜提供機能(pp.169-171)

 Razは私法の大半部分と刑法・不法行為法の大部分がこの機能に関わりがあるとし,この社会的機能を果たす法律・法制度として具体的には契約・為替手形私有財産・婚姻・会社・組合・銀行・貿易協定などを挙げている(p.169)。これらの法は個々人が目的の達成に資すると考えたり,誰かにとって良いと考えるときに自らの自由な意思(their own free will)により構築することができる法的関係の型を形作る。また,個々人がこれらの法的関係を構築したときには私法の範囲で権利を付与(power-conferring)・義務を負課する(duty-imposing)。要するに,これらの法は法的保護を享受しようとした場合に当事者たちはその枠組みの中でほとり決めをしなければならないし,相手方を説得しなければいけないわけである(p.170)。このことは,例えば相手方に食い物にされるような取り決めは制限されるし,その取り決めに参加していない第三者が不当な結果を被らないように保護することを意味する。契約自由の様々な規制や会社に課せられる制限はその現れである。特に契約の場合は,契約の相手方のみ影響を及ぼす対人的な権利(rights in personam)は広範な自由を当事者は持つが,対物的な権利(rights in rem)の内容を決める際には大幅に制限がかかることになる。

 (c)サービスの提供・財の再分配機能(p.171-172)

 Razは,この社会的機能は近年大きな重要性を有するようになってきたが,元来から存在していたとする。またこの機能を果たすのは税法・公法系であるという(p.172)。教育・健康サービス・インフラ整備・ゴミの清掃・産業・芸術支援・生活保護手当の支払い(the payment of social security benefits)など,外敵からの防御をする取り決めを作る法がこの機能を果たす。なお,Razは一般的にサービスの提供と財の再分配を一般的には区別できないとする(p.171)。

 (d)規制されていない紛争の解決機能(p.172)

 (主に法文上に)不明確な箇所があり,また司法機関により変更されうるような存在している法に左右されるような紛争に対して裁判・裁定・仲裁の手続きを適用するときにこの社会的機能を実現するとされる。この機能は,裁判・裁定・仲裁の運営を規制する法が有するとされる。つまり,いまだにどっちに軍配が上がるか不明確である場合に法定された手続きを踏むことにより紛争を解決するという社会的機能がこれである。

 これらを論じた後に,Razは規制と非規制の紛争の区別と法の諸社会機能間の区別を一致させることの両方に対して多数の異論がよく挙がるとする(p.172)。そこで,RazはType A,Type B,Type Cの3つの異なる規範体系のモデルを提示しながらこれらの区別を説明する。

 Type Aは一次機能のうち(a),(b),(c)のみ備わっているが,権威を持って紛争を解決する手続きを規定するいかなる規範も有していない規範体系である。Type Aでは⑴体系内の規範により規制される紛争の正しい解決とは何かを決定する権威的な方法がないこと,そして⑵事件は現在ある規範により処理できないから,または事案にとって既存の規範は曖昧であるから常に単純な規範の言及のみでは解決できない紛争があることになる。すなわち,全く解決・規制できない紛争があり,Type Aは紛争の解決の手助けとならない(p.173)。

 Type BはType Aと似ているが,紛争解決のためのいくつかの権威の成立と権威の規制を規範の中に取り込んでいる規範体系である。もっとも,権威を持っていないと言っても事実平面の問題の解決と事案に対する既存の規範の正しい適用に関する発言しかすることができない。Type Bでは,既存の法で規制される事件ではなかったり,関連する既存の法が曖昧なものである事件に対しては権威は門戸を閉ざす。つまり,Type Bは少なくとも一次機能の(a)から(c)までは最低でも成就しており,規制ずみの紛争(regulated disputes)には対処することができるが,十分に規制されていない紛争には対処できない規範体系であることになる(p.173)。

 Type Cは一般人の行動を導く規範と,(a)~(c)の社会的機能を果たす規範は有さないが,紛争を解決するための制度的組織体とその運営の制御を行う規範を有している規範体系である。この場合,同じような紛争でも全く異なる判決を下しうることになる。つまり,Type Cは,一次的機能のうち(a),(b),(c)のいずれの機能も果たさないが,事前に規制されている紛争はなく,常に持ち込まれる紛争が規制されていない紛争であり,その紛争を解決する手続きを有している(pp.174)。

 このように,Razは3つの規範体系を論じた後,法体系はType BとType  Cの融合体であるとする(p.174)。すなわち,法体系は規制されている紛争も規制されていない紛争の解決を提供するし,いくつかの先例原理(some principle of stare decisis)を確立している多数の法体系は一度規制されていない紛争が法廷に持ち込まれると少なくとも一部は規制されたものになるとする。それゆえ,法体系は規制されていない紛争の解決手段を提供する一次的機能と規制されている紛争の解決のための法適用組織の設立という二次的機能の両方を果たすとする(ibid.)。

 Razは一次的機能を説明した後,二次的機能,間接的機能の説明に進む。

 二次的機能とは前述の通り「法体系の維持機能」であり,法体系そのものの運用に関わる機能である。そして,二次的機能の中に法変更の手続きの決定と法適用機関の運用の制御という2つの機能があるとする(p.175)。Kelsenの定式に則れば,「法は自らの創造,そして自らの適用を制御する」ということである(ibid.)。二次的機能は議会や地方当局,行政規制,慣習,司法の法創造に関わるとされ,これらの組織の維持に必要な金銭資源の確保や,適切な人材を採用する法律,つまり公法がこの機能を果たすとされる(ibid.)。

 Razにとって,二次的機能の議論は全ての法体系ないの裁判システムの鍵になる立ち位置を明確にしているようである。というのは,Razの分類によると裁判所というのは規制されていない紛争の解決という一次的機能を果たすと同時に,法創造・法適用という両方の二次的機能,さらには間接的機能も果たしているからである。そして,多くの社会において裁判所は法機関のなかで最も尊敬されており,公共の意識の下で裁判所は最も直接的に法の考えや法の支配に結びついているとしている(p.176)。結果として,裁判所は法と法により維持される価値への尊敬の促進という点で欠かせない役割をしているとする(ibid.)。

 Razによると,法の社会的機能はこれに尽きるものではない。法には直接的機能があると同時に,間接的機能もある。Razは間接的機能を社会に不可欠な機能であるとしている(p.177)。間接的機能はこれまでの法哲学(法学)の議論で見落とされてきた社会的機能であり,それに対して社会学者や政治学者は大いに興味を持っている。そして,「社会科学が法の間接的機能の評価に関わる問題にもっと入念に取り組むようになるまで我々の法の理解一部分であり,不十分のままになるであろうことは疑いようがない」とする(ibid.)。この是非はともかく(そして報告者のこの発言に対するコメントは後述するとして),Razが自身の議論のオリジナリティとして示そうとしていることが伝わってくる。前述したように,間接的機能は法創造や法適用により生じた法への態度・行動様式からなる機能である。すなわち,その効果は多数で,性質・程度・重要性により様々であり,他の社会規範・制度との相互作用に依存する(p.176)。Razは間接的機能の例として,ある道徳的価値に対する遵守や権威の強化または弱体化や国民の連帯感覚に影響を与えることを挙げている(pp.176-177)。また,「間接的」であるからといって,法がその機能を果たすということも考えられないことはない。例として,Razは特定の階級に特権を付与する法は,彼らの地位を高めることを狙いとしているものだとしている(p.177)。

 以上,法の社会的機能の分類をした上,でRazはこの論文の最後にH. L. A. Hartの法の分類と比較して自らの法の機能の一般的分類の是非を論じている(pp.177-179)。従来,Benthamのような法実証主義者は刑法を中心に,(不)作為の命令(一次機能の(a))を法の機能として力説してきた。これに対して,Hartはそれのみならず,私的合意の便宜提供機能(一次機能の(b))と二次的機能があることを力説した。しかしながら,RazによるとHartは規範類型と社会機能を明確に区別していなかったとする(p.178)。また,義務負荷のルールが(a)を,権利付与のルールが(b)の機能をそれぞれ果たしているとHartはしているが,実際にはどちらの機能も義務負荷・権利付与のルールのいずれも関わっていると批判する。さらに,二次的機能の説明の際に義務負荷のルールが果たす重要な役割をぼやかしていると批判する。そうであるから,承認のルール(rule of recognition)を権利付与のルールであると誤解されるとする。以上のようなHartの混乱の原因を,Razは一次的ルールと二次的ルールの区別により議論の中で一方で規範的類型の区別をしようとしており,もう一方で社会的機能の区別をしようとしているという2つの整合的ではない目的を成し遂げようとしたからであるとする(p.179)。


Ⅱ 報告者のコメント・疑問点

 この章でRazは法の社会的機能という難問に関する興味深い分類をしているというのが実直な感想といったところである。どの点で興味深いかというと,第一に,法による紛争解決の手続きの重視を社会的機能として取り上げていることである。これが示唆することは,法,特に近代における法が持ち込まれた紛争を解決するために一定の手続きを踏まなければいけないというある種の煩雑さを有していることである。まさに法システムを維持するための儀式的な「機能」として法の手続きは社会学的に観察することができる。ここで,報告者は「法体系」ではなく「法システム」という表現を用いたが,まさにこの点において社会システム論(ルーマン)と親和性が出てくる。第二に,間接的機能として論理的には法体系の外縁部または外部の事象である法に対する態度を挙げていることである。もっとも,社会学政治学で関心になっている法とその他の社会規範・制度の相互作用という事象は現代(少なくとも近代)限りの観察のみに限られており,その限りで形而上を飛行する法哲学に対して寄与できる成果は近代的なエピステーメーが介在しているわけで,この点の限界は注視しなければならない。しかしながら,この話題が法哲学の中から出てきたということは,法の社会への影響を自覚的に認識しようとする態度の現れと見ることもできよう。ある種の法の「応答性(responsiveness)」(Nonet=Selznick)というわけである。

 ただ,疑問点がないわけではない。

 Raz自身も自覚しているように,この分類が完全なものであるという保証はない。例えば憲法(特に日本国憲法14条など)はRazの分類のどの社会的機能(の1つまたは複数)を果たすのか,必ずしも自明ではないと思われる。

 また,Razは紛争を規制されているもの(regulated)と規制されていないもの(unregulated)に分類し,前者の解決を二次的機能が,後者の解決を一次的機能がそれぞれ解決するとしているが,そもそも裁判所などの司法機関に持ち込まれるような紛争はその事案や先例となるべき事案の特殊性や社会変動により多かれ少なかれunregulatedな側面を有しているのではないだろうか。そして,その紛争が司法機関に持ち込まれた後に裁判官らにより審理されると考えるならば,純粋に「紛争の解決」を社会的機能とするのでは十分ではないのだろうか。もし意味があるとすれば,どのような意味があるのだろうか。もっとも,この点はRazが法の創造と適用を明確に区別していることから生じる考えの違いかもしれないが。

 最後に,Razはかなり裁判所へ重い期待を寄せていると感じる。そして,多くの社会において,裁判所は法機関の中で最も尊敬されているとされるが,そもそも一般的に法に対して関心が薄いと考えられている日本でもRazの議論の前提にある(もっとも,この前提なしでも法の機能の分類の議論は有用であると思うが)法体系内の裁判所の重視という見方は成立しているのだろうか。