社会規範と法

法(学)のわかりにくさと法社会学

0 経緯 以下に記す小論文は,2023年度Sセメスター「法学以外を専門とする学生のための法学入門」のレポートである(注1)。この小論文の公表を快諾してくださった授業担当教員の白石忠志教授に感謝の意を述べたい。 この小論文をブログに公表しようと思った…

「契約」という翻訳

Ⅰ はじめに 日本が近代化を目指し,西洋列強から法制度を継受(輸入)した際に,輸入した概念・観念を日本語で表現するのに多大な苦労を要したことは,よく知られている話である。有名な話としては,福沢諭吉がright(Recht,droit,regt)をどのように訳し…

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(中)

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(上) - pompombackerの徒然 前回に引き続き,Gunther Teubner, “Globale Bukowina : Zur Emergenz eines transnationalen Rechtspluralismus” in Rechtshitorisches…

グンター・トイブナー「グローバル・ブコーヴィナ──越境的法多元主義の発生に向けて──」訳(上)

「生ける法」議論の系譜を現代に辿っていくうちに,Gunther Teubner, “Globale Bukowina : Zur Emergenz eines transnationalen Rechtspluralismus” in Rechtshitorisches Journal 15(1996), S.255-290という論文があることを村上淳一「歴史的意味論の文脈に…

アイヌ民族政策の途

I はじめに 北海道大学は明治時代に日本が近代国家として成立し,その枠組みが作られる中で札幌農学校 として最初に設立され,現代に至る。このような日本,とりわけ北海道の近代化の裏には北海道 (=蝦夷地)に住んでいたアイヌ民族の排斥がある。北海道大学…

近代において何が法を法たらしめているのか(法学内部における外部的観察の試み)(1)

今月はあまり勉強に集中できなかった。なので今回は復習でもする感じでノートを書いてみる。 題材は法社会学の定期試験の問題から引っ張ってきた。院試の勉強みたいなものである。 参考文献は書くようにするが具体的なページ数は書かないので注意されたい。 …

Joseph Raz, “The Functions of Law” 要約・コメント

法哲学のゼミで法実証主義者であるJoseph Razの“The Functions of Law”の要約の報告をすることになった。この論文はRazのThe Authority of Law (Oxford, 2nd, 2009)所収(pp.163-179)のものであり,初出は1973年のA.M.B. Simpson (ed.), Oxford Essays in J…

小坂井敏晶『増補 責任という虚構』(ちくま学芸文庫,2020年)を読む

月に2回のペースでブログの記事を書くようになった。 そして2月の2つ目の記事は「朝井リョウ再読」にするつもりだったが,朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』が今手元にないので今回は小坂井敏晶『増補 責任という虚構』を読んでいこうと思う。 ま…

日本における「法文化」論

Ⅰ 日本人は訴訟嫌い? 戦後に登場した東大系の三大知識人といえば,川島武宜,丸山真男,大塚久雄がしばしば挙げられる。彼らは自身の学問的基盤に依りながら,戦後民主主義の旗振り役になっていたことは、諸著作から窺える(もっとも,日本が高度成長の波に…

社会問題と司法の応答(2)

前回;社会問題と司法の応答(1) - pompombackerの徒然 Ⅳ 裁判所の組織と判例の位置 前節で提起された日本の裁判所の「鈍感さ」の要因の検討に入る前に以下の2つを考える必要がある。すなわち,⑴法を全体社会の中の部分社会システムと捉えた際に,裁判所と…

社会問題と司法の応答(1)

Ⅰ はじめに 法は道徳と繋がりがあるか否かは,法理論における古くて新しい問いとしてしばしば位置付けられる。このおおよそ答えのない問いは,近代に至り共同体が融解し各人が自由で平等な主体として存在している以上,絶えず問われ続けるように思う(注1)…

熱帯夜とうなぎ

低気圧が出しゃばっている。 今日が札幌では今年いちばんの熱帯夜になるそうだ。 どうしたものか。 法学部の定期試験が終わった翌日から6日間,韓国へ学部の演習の一環で行った。 初めて韓国の地に足を踏み入れたのでなかなか良い経験になったと思う。 料理…

社会の理解と秩序づけに関する法と宗教間の類似点と相違点 〜Ravitch先生の話を聞いて〜

これは2018年12月21日に北大軍艦講堂5番教室でF.Ravitch教授(ミシガン州立大学)の講演(Perceiving the World Around Us: The Similarities and Differences Between Law and Religion in Understanding and Ordering Society)をベースに,さらにM・ガブ…

なぜ違法薬物は違法なのか

ピエール瀧がコカイン所持で逮捕された。コカインというものは所持しているとそれだけで犯罪になり,逮捕されるそうだ。ところで,テレビやネットを見る限りこの芸能人の逮捕劇の際に「なぜその芸能人はコカインを使ったのか」や「どうやってコカインを手に…

アイドルライブの中の秩序

先日,生まれて初めてアイドルライブに行った。 場所はすすきののZepp札幌で,ももいろクローバーZ(以下,ももクロ)のライブだ。 ちなみに,僕はももクロのファンではない。 ももクロの曲は1,2曲しか知らないまま足を運んだ。 ここだけ読むと,僕はまるで…

巡礼者,または殉教者,はたまた貨幣・合理主義

妹がニュージーランドから帰ってきた。 案外英語は通じたようであまり苦労はしなかったらしい。 兄として大変微笑ましい。 妹はキリストの教会(チャーチ)に行った。 そこで恐れおののいたという。 妹は牧師を前にした男の「懺悔」に畏怖したという。 なぜ…

豊饒の海

9月5日から9月19日までインドに行っていた。 親からはやめろと執拗に言われ,友達からは死ぬなよとかレイプされるなよとか言われたりもした。 インドビザの申請も少しばかりてこずったが何とか取得できた。 今回の記事はインドに行った感想,旅行でのトラブ…

ビッグデータを用いた「予測型警察活動」の問題点とその対処法(?)

概要 近年アメリカにおいてビッグデータを用いた警察活動が行われている。本稿ではいわゆるビッグデータを用いた「予測型警察活動」について,行われるようになった経緯,ビッグデータの技術的な限界,司法上の問題点,そして今考えうるそれらの対処法を論じ…

生まれてこなかったほうがいい人間はいるのか

個人の責任?社会規範の失敗? こんにちは。pompombackerです。 最近に新幹線で殺人事件が起こるという痛ましい事件が起きました。 僕が参加しているスペイン語勉強会ではこれを機に新幹線にも「監視体制」が取られるのではないかと先生は危惧していました。…